子どものいる生活

息子のこと、元夫のこと、私の生活のあれこれ。順風満帆。

夫、閉鎖病棟に入院③

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②の続きです。

 

そうでなくても疲れた心と身体を確実に蝕む地獄の寝かしつけタイム。

寝かしつけ開始から1時間経っても寝ない息子。

夫が入院する前は夫が寝かしつけ担当だったので、息子は私と寝るのに慣れておらず、ベッドに入れたものの踊る、歌う、喋りまくります。

その息子の愛らしいダンスにもお歌にも無反応、虫の息の私。

体が砂袋のように重い。

誰か助けて。

後生だから寝て。

1万円あげるから黙って。

あ、少し眠そう!

寝るかも!


そんなところに鳴り響く「ピロリン、ピロリン」というインターホンの音。

くそ、誰だよ、無視しよう。

再度「ピロリン、ピロリン」

息子「あ、ピロリン、ピロリンだ!お母しゃん!宅急便かな?一緒に行こう?」

ダメだ完全に起きてしまいました。

一体全体誰だよ。見知らぬ人に対する憎しみが湧きだします。


もう対応に出よう。

息子を抱いて玄関を開けるとお隣のご主人がいました。

この人はどうしてだか夫の入院中に度々うちに来るのです。

しかも決まって夜の9時頃。

そしていつも奥様への愚痴や自治体への愚痴などを話し、私が夜間の訪問を控えてほしい旨を話すと

「子どもを寝かす時間が早い」(8時半に寝かしつけるのは早くありません)

「仕事してないんだから保育園に預けるな」(在宅でしているのですが、在宅仕事は仕事のうちに入らないとのこと)

「2歳なのにオムツを履かせてるなんて、障害児なのか」

(オムツを外す時期には個人差があり2歳でオムツなのは普通です)

などときつい口調で言うので、私は以前からお隣のご主人が大嫌いなのです。

今回の訪問も特段用はなく、不快なことを撒き散らしに来ただけのようでした。

もう話を遮り玄関のドアを閉めてしまおうかとも考えましたが、息子の前で乱暴なことはしたくない。


それに、お隣は、奥様も息子さん達もいつも息子にも私にも優しくしてくれます。

特に小学生の息子さん2人は、よく息子と遊んでくれますし、優しくて面白いお兄ちゃん達は息子の憧れです。

お兄ちゃん達のお父さんだと思うと無下にできません。


私のそんな悶々とした想いを知らずに、お隣のご主人はしゃべり続けています。

近頃の若者は〜

最近の若い女は〜

躾けができない母親は〜

俺は息子を殴るからね〜

父親としての威厳を〜


ふと、ご主人の手元を見るとスマホがカメラモードになっている。

不思議に思ってよく見てみると録画モード。 

 私の視線に気がついたご主人は、ジロリとこちらを一瞥すると、

「まあ、あなたも男がいないとまだまださみしい年齢でしょうから」

と言って帰って行きました。


息子が「お兄ちゃんのお父さん、遊びに来てくれたね〜」と笑顔で私に話しかけますが、うまく返事ができません。


その日は息子を寝かしつけた後、朝までトイレで吐きました。

トイレの白い壁。

蚊が1匹私にずっとまとわりついていました。


トイレには、半年前、夫が元気だった頃に2人で自由が丘の雑貨屋さんで買った芳香剤が置いてあります。

吐き気で立ち上がることもできず、まとわりつく蚊を払うこともできない極限の私には、その外国製のとてもいい香りがする美しい青い瓶の芳香剤だけが味方に思えました。

その日の甘やかな記憶を反芻してなんとか正気を保ちました。


リンツカフェのチョコレートパフェ、分け合って食べたウニののったピザ、夫が買ってくれた白いレースの日傘、手を繋いでいろんなお店に入った。

息子をベビーシッターに預けた3時間の束の間のデート。


明日になれば、夫はまた病院から私に電話をかけてくるだろう。

でもその電話をくれる夫は、もう自由が丘に一緒に行った夫ではありません。


心からさみしいと思いました。

孤独だと思いました。

もう終わりにしたいと思いました。


私は最後の1秒まで前を向く。

絶対に病気に勝ってやる。

そう思っていたのに。


決壊したダムのようにネガテイブな感情が溢れ、朝まで泣きながら吐きました。


こんな状態でも朝が明ければ育児です。

10秒目を離しただけで、床にはご飯粒、網戸に落書き、お腹減った、足が痛い、靴が履けない、おもちゃがない、抱っこして、眠い、ねたくない、これ嫌い、あれ取って、牛乳飲む、やっぱりいらない、テレビ観る、ご本読んで、お膝に座る、公園に行く、暑い、帰りたい、やっぱり帰りたくない、ベビーカーならない、歩く、疲れた、際限なく続く。


合間には、仕事の電話、夫からの電話、弁護士からの電話、義父からの電話。


息子が寝たら仕事、家事、弁護士や夫の職場の方に夫の病状を伝え、自己破産の申請を遅らせてもらったり、職場の法務に傷病手当金の手続きをしたり。


自分が限界であると気がついても、誰も助けてくれないのだから、どうしようもありません。


また時期も悪くゴールデンウィークで保育園はお休み、仕事はゴールデンウィーク進行で多忙。

この頃は一睡もできずに朝を迎える日がほとんどでした。


いつも息子がお昼寝する時に私の手を握ってくれるのですが、息子が手を握ってくれている時だけ、安心して少し眠ることができました。

息子の小さな手がぎゅーっと私の指を握ると、その時だけ呼吸が楽になって、許されてると思えるのです。


私は何に許されたいのだろう。

わからないけど。