子どものいる生活

息子のこと、元夫のこと、私の生活のあれこれ。順風満帆。

モンスター

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息子の七五三のお祝いの品が実家から届いたので、お礼の電話をかけた。

いつも何かしら、実家の畑で採れた季節の野菜だとかサイズもデザインも息子には合わない洋服とか、現金とか、が届くとお礼の電話かけて、簡単なお礼状を送るようにしている。

今回は、息子の希望でビデオ通話にした。

 

電話をかけると2コールほどで母が出た。

画面一杯にに母の顔が映し出される。

母は携帯電話の操作が苦手で、端末を3センチ以上離すと声が届かないと思っているから、いつも顔が近いのだ。

目を背けたくなる老婆のアップだが、息子は喜んでいるので、私もできる限り柔らかな声と表情を作り、母に我が子への贈り物の礼を言う。

「ありがとう。お菓子もおもちゃもとても喜んでるよ」と。

画面の向こうの母は、私の声が聴こえているのかいないのか、後ろを向いて何かを誰かに叫んでいる。

「〜だって言ったでしょう!!」

「何?何をしてるの?!」

がなり声は不明瞭ですごく大きな声なのに何を言っているのかわからない。

通話を切ろうかどうしようか迷っているとうおーと吠えるような甥の泣き声が聞こえる。

どうしてここの家はいつも誰かが叫んでいるし泣いているのか。

どうしてこんなにもうるさくて、狂っているのか。

実家で過ごした息苦しい毎日が思い出されて、もうこんなに遠く離れたのに、息子と私のお家は笑い声しか響かないのに、お腹の真ん中あたりがスーッと冷たくなっていく。いつのまにか犬のように息が浅い。

 

「お母さん?おばあちゃん、どうしたの?」

不思議そうな息子の声。

息子は怒号というものをほとんど聞いたことがなく、人間がそんな声を出すはずがない。そんな声を出す人は、体の中にモンスターが入っている。つまりもう人間じゃない。かわいそう。でも仕方ない。そう思っている。

同じ保育園の子どもが、その子の親にひどく叱られていた時にそう思い至ったそうだ。

「モンスター?」

私がどう答えたら良いのか逡巡しているとそう言った。

そして、

「おばあちゃんモンスターになったの?」と母に尋ねた。

母はきょとんとして、そして笑った。

大きく口を開けて笑った母の口の中には、前歯がなかった。

モンスター。

間の抜けた笑顔に私は少しも笑えなかった。血の気が引いた。

この人はついに狂ったのかもしれないと思った。

弟の死が母をあちら側に連れて行ったのかもしれない。

母、皆が皆、口を揃えて「美人」だと評判だった母。

私のお母さん。

 

仕方ない。

全部仕方ない。

傷つくことじゃない。

全部通り過ぎてゆくだけ、頭の上を悲しいことがひゅーんって通り過ぎてゆく。

私にの生活には何の影響もない。

ただ通り過ぎてゆく。

終わるから全部。

全部におしまいがあるから。

仕方ない。

早くそのことを思い出さなくちゃ。

早く。

全部終わること。優しい弟が教えてくれたこと。