子どものいる生活

息子のこと、元夫のこと、私の生活のあれこれ。順風満帆。

いい父親でいて

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どうしてこんなにイライラしてるのだろう私は。

何に怒ってるのだろう。

こんなに。

理由もわからないのに上唇が微かに震えている。

弟のLINEのアイコンが変わり、他人の名前になった。それを確認した時から上唇はもう2時間も震えている。

息子の部屋をイライラしながら掃除して、イライラしながら昼食の支度をして、イライラしながらビニールプールに空気を入れて、元夫に「何をそんなに怒っているの」と指摘され、もしかして私は怒っているのかと気が付いた。

何に?

弟は死んだのだから、誰か別な人が弟の電話番号を使っても全然不思議じゃない。

弟は死んだのだから。

わかっている。

そんなことはわかっています。

私は狂っているわけではない。

 

あの番号に電話をかけたら別な人が、私の全然知らない人がでるのだ。弟の番号にかけたら。

いつもやりとりをしていた。

自分の電話番号も覚えられない私が唯一空んじることのできるあの番号にかけたら別の人が出るの?

どうして?

弟のなのに。

私の弟のなのに。

そう思うと涙がパタパタと床に落ちた。

バカバカしい弟は死んだのに。自分で選んで死んだのに。

何を私は。

 

弟の大切にしていたバイクの写真のアイコンはアニメの女の子の絵に変わっていた。

知らない人のそれを削除した。

通夜の日に父が

「まだそんなもん見てるのか俺はもう消しやったわ」とどこか自慢げに言っていた弟のLINEのアイコン。

父からの連絡を何年も無視していた弟。

通夜の日に泣き腫らした私にそんなことを言う無神経で意地悪で甘えた父。

これは父への怒りなのか。

わからない。

たぶん自分への。

弟の死を受け入れようとしない自分への怒り苛立ちなのだと思う。

なかなかキッチンから戻らない私に息子が「お母さん!お母さん!」と呼んでいる。

この子はひっきりなしに私を呼ぶ。

震えた唇で

「どうしたの?」と問うと「お父さんにお電話したい」とかわいらしい笑顔で言う。

「いいよ」

と私も笑顔で応じる。

勝手に携帯を触らないように普段は緊急時以外は父親に電話をかけてはいけないと言ってあるので息子はとても喜ぶ。

イライラしている私が相手するより電話越しに元夫に相手をしてもらったほうが息子に良いだろうと思ったのだ。

携帯を渡すと何度か呼び出し音がなった後にくぐもった元夫の声がして、息子はうれしそうに話し出した。

これでしばらくは、お母さんお母さん言わないだろう。

ホッとする。

気づくと背中に汗をぐっしょりとかいていた。

少しひとりになりたい。せめて上唇の震えが止まるまでは。

 

2人の会話が途切れ途切れに聴こえてくる。

 

良い父親でいて。

どうかこの子の良い父親でいて。

叫びたいような衝動にかられる。

お願いだから良い父親でいて。

頭の芯が痺れるほどに強く願う。

私の父のように自分の息子を痛めつけないで。

どうか良い父親でいてください。

良い父親になれないなら消えて。

いらないから。

子どもを守れない父親はいらない。

傷つける父親はいらない。

自分の影響力と責任を自覚して。

親なんだよ。

わかってる?

お前も親なんだよ。

子どもを生かしも殺しもできる親なんだよ。

目を覚ませ。

 

いつの間にかキッチンの床にへたり込んでいた。

お夕飯は、麻婆茄子とニラのおひたし。

泣きながら作ったお夕飯。

電話が切れる前にお皿に盛り付け、笑顔で食卓に出そう。

私にはそれができる。

それが私の役目だから。

父親の役目はなんだろうね。わからないけど、息子があなたを好きでよかった。

良い父親でいて。