子どものいる生活

息子のこと、元夫のこと、私の生活のあれこれ。順風満帆。

痛々しい夜泣き

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窓の外は木枯らしがふいていてとても寒そうだけど、部屋の中は暖房がよく効いてるのでふわふわと暖かい。

加湿器からもくもくとでる蒸気、エアコンからの温風でわずかに揺れるレースのカーテン。

その暖かく安心な部屋で私は、ソファに座り、息子と家庭教師の先生のやり取りをぼんやりと眺めている。

「次はこれをやってみようか」「何これ?パズル?面白そう!」「息子くんなら早くできると思うよ」明朗快活な先生の声、これまた明朗快活な息子の声。

お勉強がよくできる子さん。将来が楽しみなお子さん。

そういう息子への評価には私も息子もいつのまにかすっかり慣れてしまった。

幼児教室の講師の、家庭教師の息子への大変に丁寧な対応ともっともっとという期待。

お勉強がよくできる子としての息子。

彼は、ベビーシッターにも講師にも家庭教師にも気負いしない。

自分の希望をはっきりと伝えるし、いくら勧められてもやりたくないことは頑なにやらない。

以前、幼児教室のお迎えの時に

「先生たちは、僕のことが、お勉強ができるからすごく気に入っているからね。

僕の言うことをきくんだよ」

と少し困った顔で私にヒソヒソと話したことがあった。

「良くないよね」と。

良くないよねと言いながら、肩をすくめて困った顔を作りながら、確かに息子の表情と声には、ここの講師はチョロいという、どうだ、という感じがあった。

子どもは大人を良く見ている。

私のことも良く見ている。

誤魔化せないからこわいけど、面白い。

そのあと、息子の希望で幼児教室はやめた。

 

先生の息子を褒める明るい声。よく訓練されたやる気を引き出す声かけを聞きながら、息子の小さな愛らしい後頭部、先生の丁寧に撫でつけらた七三分けの後頭部を見る。

部屋が暖かいので、眠い。

 

今夜もあれがあるかなと思うと気が重い。

あれとは、夜泣きのようなもの。

息子のある種の自己主張。魂の叫びみたいな。

 

それは、だいたい夜中の2時から3時に起こる。

ぐっすりと寝入っていることろを「お母さん、お母さん、起きて」と切羽詰まった声で揺り起こされると、ああ、またあれかと思う。

かわいそうに、かわいい私の赤ちゃんと。

 

それの時、息子は、何故かいつも切羽詰まって怒っている。イライラしている感じ。普段はイライラすることなんてほとんどないのに。

布団の上で暴れるので抱きしめて落ち着かせようとすると「抱っこしないで」と言って逃げる。

冷えた廊下に出て座りこむので「寒いから寝室に戻って」と言うと、堰を切ったように泣き出す。

「僕はお利口じゃないから言うこときかない。ここにいる」

怒って泣いて顔が真っ赤だ。

「どうして怒ってるの?寒いとお風邪引いてしまうでしょう」

「お母さんはいつもどうして?どうして?ばっかり!僕はどうもしない!どうもしなくてここにいるの!寒くてもいいの!」

私は夜中に叩き起こされて、どうしてこんなに怒られてるんだろう。寒いし眠い。もう「どうして?」とも言えないし、頼りなく立ち尽くす。

泣いているから抱きしめたいな、また逃げるかな。

大事に大事にして、やれることは全部やって、それでもダメなら、息子が不幸なら、もう私という人間がダメということで、これ以上に為す術はなくて、私は消えたい。いや、力尽くし、心に寄り添いたい。

「お母さん、もうなんでって言わないよ。ここに居たかったらいてもいいよ。今、毛布と暖かい飲み物持ってくるね」

毛布とホットミルクに蜂蜜を少し入れたものを持っていくと、息子はもう泣いていなかった。

そして

「お母さん、僕は全然賢くないんだよ」

と言った。

「そう。息子がそう思うならそうなんだね」と答えた。

「全然いい子じゃないし」

「うん」

「すごく悪いことも考えるし、意地悪なんだよ」

「そうなの。いろんな面があるよね」

「あと、かわいくもない!全然全然かわいくない!」

「うん」

「それでもいいの?嫌でしょ?もう嫌になるでしょ?」

ピンクの水玉の毛布をぐるぐる巻きにした息子はかわいいとしかいいようがなかったけれど、今はたぶん「かわいい」と言わない方がいいんだろうと思って、ぐっと堪える。

ぎゅうぎゅうに抱きしめて「かわいいかわいいかわいいかわいい」と言ってベッドまで運びたい。

廊下は寒いし、息子は必死で痛々しいし、どうにか彼の心を安息へと導きたい。何と言ったら息子は安心するのだろう。私の何がいけなくてこんな風に夜中に泣くのだろう。足りないところがあるんだろう。だからこんな風になるんだろう。申し訳なくて心が張り裂けそうになる。

「あのね、お母さん、息子が賢くなくても、何もできなくても、悪くても、意地悪でも、顔が変わって変な亀またいな羊みたいな顔になったとしても、今と全然少しも変わらず大好きなんだよ。生まれてきてくれてありがとうって思うよ」

息子はポカンとして、それから目をパチパチして、私の膝の上にちょこんと座った。

「お母さん、お母さんはそう言うと思った。変だから」と言った。

「いい子じゃないところ、みんなにあるよ。お母さんにもお父さんにも先生にもあるよ」

と言うと「知ってるよ」と、「廊下は寒いね」と言うから毛布でぐるぐる巻きにしたまま抱っこして暖かい寝室に戻った。

2分後には健やかな寝息。

 

勉強が良くできるお子さん。将来が楽しみなお子さん。

そんなのくだらないと糞食らえって実はお母さんは思ってるの。

私はあなたが大好き。

なんでもしてあげたい。

可能性を広げてあげたい。

だからプレジデントファミリーを読んで、家庭教師を雇うけど、そんなのあなたへの溢れんばかりの愛情の余波みたいなもので、取るに足りないことで、あなたがお勉強をやめたいならいつでもやめたらいいし、これから先、あなたが私に気に入られたいと思って何かをする必要は1ミリもないんだよ。