7年前にはまだ少年のようにあどけなかった男の子はすっかり大人になり、私にお説教をする。
成功者は説教に慣れている。いろんなところで同じような話をして、すごいすごい、さすがさすがと言われいるのだろう。
何度も繰り返すうちに無駄が省かれた、平易な言葉のわかりやすい人生論。
キラキラの腕時計。
ハイブランドのサングラス。
深くかぶった帽子。
サングラスの奥の目だけが昔と変わらずに優しく、じっとこちらを見る。
付き合い出してしばらくすると大抵の男の人は、目線がじっとり湿ってくる。 酔っ払ったみたいにとろりとしてくる。見つめ返すと瞳の奥がぐらりと揺れる。
私はその変化が好き。
魚を釣り上げたような達成感があるから。
夫の目は今どうだろうか。
それにしても安っぽいお説教の末に「幸せになってよ」なんて、冗談にしても面白くない。つまらない。
「私と会ってた頃、愛があったの?」
「さっきも言ったじゃん、もちろんあるよ」
「彼女がいたのに?」
「いや、あれは彼女じゃないって」
「彼女は付き合ってるって言ってたけど?」
「付き合いって言ってもいろいろあるじゃん。あの子はそういうんじゃないって。てかさ、なんで今更そんなこと責められないといけないわけ?」
「責めてないでしょ?偉そうにお説教して愛がなんだっつって、やってることと言ってることに一貫性がないって言ってるだけ。なんなの、子どもみたいなアイドルばっか家に呼んで、そんないやらしいおっさんに説教されたくないんですけど」
「あれも仕事だよ」
「へ〜」
「いや、愛とかそういうのとは別に男にはいろいろあるんだよ。女の人にはわからないよ」
「性欲と愛をわけるってこと?」
「いや、性欲って感じでもないな。もうそんながつがつしてないし。単純にかわいい子に好きとか言われるとかわいいし、うれしいし、自信につながるっていうか」
「トロフィーかよ」
「トロフィー…トロフィーみたい感じかもしれないね。愛はないからね」
「生きてるトロフィーなんて悪趣味だよ。気持ち悪い」
「でもまあ、向こうもそれを望んでるからね」
「それでも悪趣味」
「相変わらず潔癖だな。あなたはトロフィーじゃなかったし、好きだったよ。きれいで優しくて一緒にいると癒された」
「そう」
「がんばろうと思えたよ」
「そう」
「僕、思うんだけど、あなたが欲しいのってさ、愛じゃなくて、あなたへの忠誠心なんじゃない?愛なんてそもそも求めてないんじゃない?」
「忠誠心!」
「そう、女王に仕える忠実な下僕が欲しいんでしょ」
「そうかもしれない」
「悪趣味だよ」
「ふふふふ、、、そうだね。でもね、息子と夫には愛あるよ」
「家族愛ね」
「うん」
「幸せなんだね」
「うん」
「よかったよ」
彼の目がすっと細くなった。慈しむような優しい目。
もうじっとり湿ってない、ただただ優しい目。
もしかしたら、愛はそこにあるのかもしれないと思った。
あなたも幸せそうでなにより。