息子と二人暮らしは気儘なもので、お休みの日は大抵10時頃まで布団の中でうとうとしたり、本を読んだりしている。今日もいつも通り2人で暖かな布団の中で本を読んだり、息子は折り紙を折っていた。
エアコンの温風で部屋が十分に温められてからのそのそと起き出す。
息子が「いいお天気だから大きな公園に行こう」と言う。
私達は公園で遊ぶのが大好き。とりわけ大きな公園が好きで、都内の至る所にある緑豊かな大きな公園に電車やタクシーに乗って行く。
駒沢公園、砧公園、馬事公苑、世田谷公園、飛鳥山公園、舎人公園、林試の森公園、代々木公園。
大きな公園の良いところは、大きな犬がたくさんいるところ。
いろんな人が居て、皆のんびりと思い思いの時間を過ごしているところ。
息子と一日中遊べるところ。
ピクニックができるところ。
昆虫がたくさんいるところ。
今日は長い滑り台のある大きな公園にした。
公園に着くと息子が「子どもがたくさんいるねぇ」と言って私の手をぎゅっと握ってきた。
息子は知らない子どもを「お友達」と呼んだりしない。保育園でも児童館でも周りに合わせて「お友達」と言っているが、私の前では普通に「子ども」と言う。
彼は知らない子どもがあまり得意ではないので、知らない子どもがたくさんいる場所では最初警戒する。
遊具に群がる子ども達をしばらくじっと観察して、乱暴な子どもがいないか、滑り台の順番を守れない子どもがいないか、ブランコを小さな子に譲らない小学生がいないか、砂場で砂を他の子にかけてる子どもがいないかなどを確認して、1番人の少ない安全な場所を見つけて、そこに入っていく。
今日はまず砂場に行って、そこにいる子どもに「ここで遊んでもいい?」と礼儀正しく尋ねてから遊んでいた。ベビーシッターに連れられた1つ年上の男の子と話が合ったようで5分もたたないうちにすっかり打ち解けて、2人で砂だらけになりながらトンネルを掘り、川を作り、水を流していた。
私は砂場の縁に座りシッターさんと「今年の冬は暖かいですね」などと話す。
ふくよかな彼女がイギリス人だと言うので、私はうんと若い頃に行ったロンドンの街並みと、ロンドンに本社がある関係でよくロンドン出張に行っていた夫が、私の産後すぐにも出張に行くと言うので一悶着あったことなんかを思い出していた。
産後の悶着は、その後、数限りなく発生したので、そのくらいの悶着は今となっては小さな小さなものだったのだけど、あの時は見捨てられたような気持ちになったんだよ。
ひとりぼっちだと思ったんだよ。
もう今は夫に対して見捨てられたような気持ちになることはない。2度とないだろう。
私はもう夫に守られていないから見捨てられもしない。
あの頃とは変わってしまった。
でもそれでいい。
誰かに見捨てられるなんて、そんな心細い気持ちになるなんて二度とごめんだから。
私は誰にも守られてない。
誰も私を見捨てることができない。
なんて清々しい。
顔を上げると泥だらけになったコートを脱ぎ捨てて薄手のシャツ一枚で泥遊びをする息子の姿が目に入ったので、慌ててこちらに呼び寄せ、予備に持ってきていたトレーナーを着せる。
「寒くないのに」と鼻水を垂れながら言うので、鼻水を拭いてやる。
拭き終わらないうちに駆け出していく息子の背中を見守る。
この子が私に見捨てられたと感じることがあってはならないなと思って気を引き締める。
何があっても味方だと信じられる人がいることの心強さを息子には持っていてほしいから。
私がかつて持っていた、今は失った心強さを。