父からLINEがきて、いつもなのだけど、それは絵文字をふんだんに使った、句読点の多い、妙に親しげな文章で、父はその文体で若い愛人にいつも性欲と支配欲ダダ漏れのやり取りをしていることを私は知っていて、その吐きそうな文体で伝えられるのは、弟の一周忌の日時の知らせで、まだ2ヶ月以上先の一周忌の法要を意気揚々と笑顔の顔文字を使ったクソ文体で知らせてくる父親に殺意を覚えて意識を失いそうになる深夜。今。
父が弟にしたこと、父はなんでもないと思ってしたことを思い出す。
髪型を坊主以外許さなかったとか、鬱になっても自衛官を辞めることを許さなかったとか、やることなすことにダメ出ししたとか、弟の選ぶ服装、音楽、本、全てをバカにしたこととか、弟が熱心に取り組んでいた孤児支援のボランティア活動をくだらないと吐き捨て笑ったこととか、いつも馬鹿にして笑っていたこと、こいつは頭が悪い、身体が弱いと他人に紹介する時に言う時の嘲笑った表情とか、いくらでも思い出せる。それが日常だったから。
驚くことに父は自分が全く悪いことをしたと思ってない。弟を傷つけたなんて少しも思ってない。
弟は弱い。
情けないとずっと言っていた。
死んでからすら、通夜の挨拶で開口一番「息子は親不孝です」と言った。
親不孝?
お前が殺したんだろ?
葬儀の後の親類が集まった食事の場で弟のことは誰も話さなかった。
弟の話は誰もしなかった。
父がくだらない話を大きな声でしていた。
酒を飲み、ガツガツクチャクチャと懐石料理を食べる姿は血の気が引くほど醜かった。
自分の親をそうな風に思うなんて、あなたは頭がおかしいから、キチガイ病院に行きなさいと母は言う。
心がない、優しさがない、見た目もおかしい、肌が白すぎて病人みたい、髪が長くて浮浪者みたい、化粧が濃すぎるから子どもがいる女の顔じゃないみっともない、その指輪いくらするの?値段が言えないくらい安物なの?恥ずかしい外しなさい、眼つきが悪い、やっぱりあなたはキチガイね。
はい、お母さん。私はキチガイです。だからあなたもお父さんも消えて欲しいのです。
幼い頃は、愛されたいと、いや、せめて言葉が通じたらと思って、コミュニケーションを試みたけど虚しいだけだった。
自分の親が醜い塊だと浮き彫りになるだけだった。
父や母が言うように私はキチガイなのだろうと、父と母が正しいのだろう今もどこかで思っている。
でも私は、狂気をはらんでやっと生きてこれたのだからキチガイでも構わないよ、もう。
もうキチガイでいい。
それでいい。
ああ、今、夫から今週末は会えないと連絡があった。
暗闇が広がる。
手足の先がどんどん冷たくなる。
落ちる。
どんどんどんどん落ちる。
馬鹿馬鹿しいよね。
クソみたいな他人に翻弄されるなんて。
でも落ちる。
弟がかわいそうでならない。