芸能人の不倫のニュースに沸くテレビやSNSにくだらないな、馬鹿みたいだなと思いながらも胸がざわつくのは、私がかつて浮気相手だったことがあり、またパートナーの不貞には並々ならぬ増悪感情があるからだろう。
私には浮気相手に選ばれやすいという本当にどうしようもないゴミみたいな特徴がある。
自暴自棄で自分に愛がないからだと思う。
17歳の時に初めてできた恋人にも彼女がいた。
間抜けなことにいつも後になって知る、というか知らされるのだ。
初めてできた恋人はアルバイト先の大学生で、皆で集まりカラオケに行ったり、ラーメン屋に行ったり、花火をしたりしているうちに仲良くなり付き合うようになるという、おそらく毎年2000万人の少女がその流れで付き合うようになるであろうありふれた始まり方をして、彼の家でマリオカートをしたり、海に行ったり、バイト先に彼の本来の恋人が来て髪の毛を掴まれたりして、彼がバイト先のコンビニエンスストアのレジの金を盗んだ捕まり終わった。
捕まったことを本来の恋人より先に私に報告してくれたことが嬉しかったことを覚えている。
救いようがないほどくだらない嬉しさは、どうしようもなく馬鹿な若い頃の私のエピソードとしてちょうどよいから。
今はもうよく覚えていないのだけど、整った顔立ちの黒縁眼鏡をかけた背の高い人で、肩から腕にかけて黒い刺青があった。
頭は悪かったけれど親が大金をはたいて医学部に入学して、でも大学にはあまり行っていなくて田舎に倦んでいた。
そんな特段面白味があるわけでない初めての恋人よりも、恋人の彼女、本来の恋人の顔をよく覚えている。
背が小さな目の大きな声の高い女の子だった。
浅黒い肌をしていて、ショートヘアがよく似合っていた。20歳のかわいい女の子。
浮気を察知して、彼と私のバイト先であるコンビニに来て私をみつけてレジカウンター越しに掴みかかってきた後、私達は3人で遊ぶようになった。
彼は私とは別れないし彼女とも別れないと私達に宣言して、彼女は彼と私が2人で会うのを嫌がっていつもついてきたから。
私は初めての恋人だったから、まあそんなものなのかと思っていた。受験勉強もあるから代打がいた方が都合がいいくらいに。
彼女は恋人に優しくて、全然怒らなくて、天女の様だった。そして私にもすごく優しかった。恋人以上に私に優しくしてくれたかもしれない。
彼は彼女のことをよくふざけて「お母さん」と呼んでいて、彼女はそれを喜んでいて、私はそれが最高に気持ち悪かった。
彼女の運転する黒いワンボックスに恋人と乗って量販店の立ち並ぶ田舎の国道を走っていると、ああ早くここから出て行きたいと叫びたい気持ちになって、もうすぐ都会の大学生になる私はあなた達と違うんだと2人を見下した。
私はこんなところであんた達と楽しく遊ぶのはもうすぐお終いなんだからと。
車の芳香剤のココナッツを模した匂い、カーステレオから流れるミスチル、遮り物がなくて強すぎる夏の日差し、太腿に置かれた恋人の手、彼女の吸うマルボロメンソールの吸殻についたピンクの口紅の跡を大人っぽいなと思った17の私。
娯楽の少ない文化のない田舎の少女の一夏の恋らしき記憶。
彼女のいる恋人に「どうして私とも付き合うの?」と尋ねると「毒を食らわば皿までと言うでしょ」と言った。そういうものかと思った。
彼女に「どうして私に優しいの?」と尋ねると「あんたがかわいそうだから」「あんた、これから男でもっと酷い目にあうよ」と言った。
そうなのかと思った。
その後、私に好意を持ちお付き合いをしたいと申し出てくれた男性の多くに恋人や配偶者がいて、彼女が言った「酷い目にあう」ってこれのことなのかなあとぼんやり思ったりする。
つまり誰からも1番には愛されないということ。
その価値がないということ。
別に私は男からの愛なんてなくても全然構わないけど、裏切り者には死を、1人の者を愛せない者には永遠の孤独と苦痛をと心から思う。
彼が今どうしているのか知らないけれど、彼が親から継いだ病院は廃墟になっている。
彼女は寺に嫁いで双子を産んだらしい。