5歳の息子は夜寝る前に私にお話をしてもらうのが大好き。
お話というのは、私が即興でつくる童話で、ファンタジーだったり、ミステリーだったり、たまにホラーだったりもする。
息子は毎晩「今日もお話をして!」と私にねだる。
毎日のこととなると、何も思い浮かばない日もあり「今日は何も思い浮かばないからお話はお休みね」と断る日もある。
しかし息子は私がお話をしないことを許さない「僕はお話が大好きなお話病になっちゃったんだよ。お話をきかないと眠れないよ」と言い、本当に深夜まで眠らない。
寝ない息子に深夜までお話、お話、お話、お話といわれるのはたまったものではないので、なんとかお話を捻り出す。
「夜の小学校に行ったことはありますか?夜の小学校にはかわいいかわいい生徒がおります」
「何?お化け?リス?」
「その生徒はネズミでございます」
「ネズミかあ」
「こネズミたちはマンホールの蓋を開けて夜の街へと出てくると皆小学校に集まるのです。静かな夜の小学校の校舎にチューチューという可愛らしい鳴き声が響きます。こネズミ達はきちんと机につき、教科書を開いています」
「ネズミがお勉強するの?」
「そう。いろんなことが知りたいからね。そこに現れたのは髪もお髭も真っ白のサンタクロースみたいなお爺さん。彼がこネズミ達の先生なのです」
「人間の先生なんだね」
「そう人間なの。先生はこネズミ達に言いました。みなさん、こんばんは。ネズミの学校へようこそ!さて、最初におやつをあげよう。ほらこの金平糖を見てごらん。おいしそうだろう。今から配るからカリコリかじって召し上がれ」
「やばいやつじゃない?」
「そう。やばいやつ。こネズミ達は初めて見る金平糖に目をキラキラさせて、小さなピンク色の手でそおっと持つと恐る恐る口に入れました。カリ…ひと口かじったその時です」
「あ〜」
「あ〜だね。でも大丈夫。きっとね。金平糖を食べたこネズミは1匹残らず…眠ってしまいました」
「死んでなくてよかった〜」
「ね。すやすや眠るこネズミ達、そのこネズミ達に白ひげの先生は…あ、そこに現れたのは息子くんです!」
「僕?」
「そう」
こんな風にお話には大抵息子が登場する。
息子は白ひげの先生の正体を暴き、こネズミ達を助け、感謝され、ネズミ達にお勉強を教え、ネズミの国に招かれ、学校を建設し、金銀財宝を贈られ、石像を建てられ、朝には自宅に戻って私の隣で眠っているというストーリー。
私は息子の冒険を何も知らない。
息子は私の知らないところで活躍し、日常に帰ってくる。少し成長して。
お話を終えると息子が「あ〜面白かった!」と満足そうにいって私のお腹の上に乗りました。
頭を撫でて「さあもう寝よう」と促します。
自分の声があまりに母親然としていて、なんだか台詞を喋っているみたいに思えます。
架空の物型を話すのことと母親として振る舞うこのはどこか似ている。
遠くにきたなと思う。
あんなにひとりぼっちだったのに。
望んでここにきた。
それに帰る場所もわからない遠い場所を私は気に入っている。
母親としての私。
私の子ども。
明日はどんなお話をしましょうか。