ヒヨス、エンジェルトランペット、ハシリドコロ、すずらん、あじさい、彼岸花、毒草について調べている時だけ荒れた感情が凪ぐのを感じる。
息子がお絵かきする隣で図鑑を見ながら毒草を模写する。30色入りのクーピーで丁寧に描く。絵を描くのは子どもの頃からずっと好きだ。
ヒヨスの花びらを薄黄色で塗り、その中に黒い点々を打つ、途端に可憐な黄色い花は禍々しい外見へと変化する。
毒があります。
だから近づかないで。
触れないで。
食べないで。
花は禍々しい外見でそう教えてくれている。
いじらしく身を守るための我が身に宿した毒。
生きるための命を繋ぐための毒。
生き物は生きることはそういうことなのだろう。
だから、ね。
だから、
いざとなれば。
そう、いざとなったら。
いざとって?
いざとっていつ?
もしかしてもうとっくにいざとなってるんじゃない?
もうとっくにそのときがきてるんじゃない?
今が。(今が)
「今?」
熱心に落書き帳に向かっていた息子が不思議そうに私の顔を見る。
「あれ?お母さん今何か言った?」
「言ってたよ。今がって。何が今?何するの?」
「なんでもないよ。独り言。何描いてるの?見てもいい?」
「いいよ」
息子は立ち上がりどうだという風に絵を高く掲げた。
ぷくぷくの赤いほっぺ。私の宝物。かわいい坊や。
見ると、白い紙いっぱいに楽しそうに笑う3人の人間が描かれいる。3人は手を繋いで、周りにはたくさんのハートがある。
ああ、これは、私と夫と息子だ。
目の前がぐにゃりと歪む。
「お父さんとお母さんと僕だよ!」
「じょうずね。楽しそう」
「3人一緒だと楽しいからね」
「うん」
「お父さん、今度は途中で帰らないといいな」
「うん」
「お母さん?泣いてるの?大丈夫?お父さんが帰って驚いたから?大丈夫だよ。またすぐ遊びに来るよ。泣かないで。おばさんだからすぐ泣いちゃうんだろうけど、大丈夫だから泣き止んでよ」
「ありがとう」
「泣き止む?」
「うん」
「は〜よかった。僕お母さんが泣くと嫌なんだよ」
「だよね。ごめんね」
絵の中の3人は皆笑っている。
息子から見た私と夫。
私達は、家族。
息子はお父さんが大好き。
息子はお父さんが大好き。
息ができない。
私は?
私は夫が?
夫は私が?
また感情揺れる。ヒヨスの黒い点が私にあればよかったのに。
私の感情。私の憎悪。私の毒。
私の気持ちはいつも行き場がない。
私が怖い?
あなたが怒らせたのに?
私は、私は全部がわからない。