随分とご無沙汰しておりました。
もう12月ですね。
新居に引っ越してから2カ月弱。
正直、世田谷の家が懐かしく、恋しく思うこともありますが、なんとか元気にやっています。
産後のことを書こうとすると、思い出が辛すぎて体調が悪くなるので、今日の出来事でも書こうと思います。
今日、私と息子は銭湯に行きました。小さな町の銭湯ですが、子ども風呂があって息子はそこで遊ぶのが好きです。
今日もお風呂で楽しく遊んで、ほかほかに温まり、真っ赤なほっぺのかわいい息子が湯冷めしないようにとあたたかいうどんを食べに行くことにしました。
そのうどん屋で事件は起こりました。
湯上りで上機嫌の私と息子は、おだしのいい匂いが立ち込めたうどん屋でとても幸せな気持ちで温かいうどんをすすっていました。
私は天麩羅うどん、息子はけんちんうどん。
息子のうどんを器に取り分け、フーフーと冷まし、こぼさないように食べているのを見守りながら自分のうどんを素早くすする。
息子の腹の空き具合によっては、食べ始めてものの2,3分で食べるのに飽きてしまうこともあるため、自分の食事はできる限り早めに終えておくのがベターなのです。
子どもを連れた外食は、息子が4歳になって楽になったとは言っても気が抜けません。
スムーズに食事を終えることが多くなったとはいえ、100%無事に終えるというわけではありませんから。
そんな一見和やかに見えて、その実は張り詰めた食事の時間。
子どもの食べるペース、食器の位置に気を配り、立とうとすれば「お食事の途中で立ってはいけないよ」と注意し、しゃべってばかりで箸が止まっていれば「おうどん冷めちゃうからもう少し食べてからお話ししようね」と提案し、口の周りが汚れれば拭き、もちろん、楽しく会話もしつつ、自分のうどんはどんどん食べる。
そんな感じで今日も食事をしていました。
食事も中盤、やや息子が飽きてきた頃、隣のテーブルでビールを飲んでいた60代くらいの肉体労働者風の男性が息子に話しかけてきました。
「坊主、かわいいな。うどんうまいか?」
「…」(急に知らない人に話しかけられてもいつも応えません。)
「なあ、坊主。うどんとお母さんのおっぱいとどっちがうまい?」
男性は酔っているようで声が大きく、たばこの煙をこちらに吹きかけるので、私は男性に話しかけるなという意思表示として「騒がしくてすみません。もう出ますので」と言いました。
男性はニヤニヤしながら「なあ、坊主、まだお母さんのおっぱい飲んでるのか?おじさん羨ましいなあ」と息子に話しかけます。
私にとってはひどく屈辱的な内容でしたが、相手は酔っ払いだし、悪気のない相手にケンカ腰になって楽しい今日が汚されるのが嫌だったので相手をきつく一瞥し、息子には「もう行こうか」と言うに留めました。
それに、こういう悪気のない相手からの屈辱的な内容の話しかけなんて、これまでにも何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もあったし、これまでだってやり過ごしてきた。
気にしすぎ。
ちょっとからかわれただけなのに怒るなんて。
自意識過剰。
相手は仲良くなりたいだけ。
コミュニケーションのひとつ。
楽しい雰囲気を壊す。
それでも私には耐え難い。
私がおかしいのかな。
何か腐ったものを掌にべたりと付けられたような不快感。
汚いものに触ってしまったと感じる。
そう感じることがおかしいのかな。
もしかしたら相手にとても失礼なことなのかもしれない。
でも無理。
消えて。
駆除されて。
ダメだ。
そんなこと思っちゃダメだ。
母親なんだから。
とにかく店を出よう。
「お母さんのおっぱい大きいか?」
ああ、まだ言うか。
クソが。
その時、
男性に声をかけられても無視を通し、黙ってうどんを食べていた 息子が、自分の前にあったうどんの器、小鉢を手で払い、全てをざっと机の下に落としました。
真顔で。
子ども用のプラスチックの器はカランカランと派手な音を立てて床に散らばりました。
私は「どうしたの?」と叫びました。
厨房からはお店の人が慌てて飛んできました。
私はお店の方に謝り再度息子に「どうしたの?」と尋ねました。「いけないことだってわかるでしょ?どうして?」と。
息子は堰を切ったように泣きだしました。
ああ、どうして「どうしたの?」なんて言ったんだろう私は。
私の「どうしたの?」は息子に言ったんじゃない。息子の行動を見ている周りに対して言うべきセリフとして言ったんだ。
だってどうしたのなんて思ってないもの。
ありがとうって思ってるもの。
黙らせてくれてありがとう。
ありがとう。
大好き。
ヒーローみたい。
大好き。
お店の方にレジでもう一度謝罪してうどん屋を出ました。
泣き止んでむっつりと黙っている息子に
「どうして落としたのか教えてくれない?もしかしたらお母さんどうしてか分かってるかもしれない」と言うと
「おじさんに怒ったから。絶対に黙らせたかったから。いけないことだって分かってるけど手が勝手に動いたの。だからわざとじゃない」と答えてくれました。
「お母さんもね、おじさんに黙ってほしかったの。だからねいけないことだけど、息子がああやってパワーで黙らせてくれてうれしいって思ったの」
小さな背中をさすりながら話します。
ああ、ダメな母親だと思いながら。
「知ってるよ。お母さんのためにしたから」と。
きっと衝動的にしたことでしょう。
私のためだと言えば叱られないと思っての発言でしょう。
それでも、「ありがとう」と不適切かもしれないけれど伝えました。
「うん。ごめんね。もうしない」
「悪い人だったら息子が危ないんだよ。だからもうしないで。お店の人も周りの人も困るからね」
「勝手に手が動いたんだよ」
「うん。そうだね」
「いけないことだけどどうしてもしなくちゃいけないから手が動いてくれたんだ。仮面ライダーオーズの人の手みたいに。わざとじゃない。僕は乱暴な子どもじゃない」
「うん。知ってるよ。大好き」
「お母さんてさ、僕のことほんと好きだよね」
息子がいつものおどけた表情をしました。
ありがとう。